No.211

写実絵画の活況とポスト真実

text : mama(美学者母)
2017年5月17日(水曜日
)執筆

 

最近アート界隈で賑わっている話題が、
写実絵画の活況です。
アート業界が盛り上がる事はとてもいい事だと思う反面、
このアートのムーブメントが、
ドメスティックな事が非常に問題です。
つまり、
世界のグローバルスタンダードなアートとは、
まったくリンクしていない、
つまり美術史や批評性とは程遠い、
これはどういう事かというと、
つまるところ、
日本人の趣味的ムーブメントだという事です。

ではこの写実絵画のムーブメントは何を表層しているのか、
その点について述べていきたいと思います。
日本人におけるアートの古典は印象派です。
その上で、
現代の日本の世の中を考察してみましょう。
これは現代思想的にも言える事ですが、
日本の社会は非常に、
不確実で不透明な世の中になってきています。
これは世界を見渡してもそうですが、
思想的にも、
この不確実性や偶然性というものが、
現代の世の中のキーワードとなっています。

日本人は今、
非常に不安定な世の中を生きている事になりますが、
その中で確実に安定した価値や生き方を欲しているのです。

それは日本人のアートが印象派という、
ある種不安定で不確実な表層性から、
安定し確実で、
誰しもが簡単にその価値を共有できる、
写実絵画に、
ある意味アップデートしたと考える事ができます。

美術史的には写実は、
過去の方法論で、
現代で評価される対象ではないのですが、
日本人にとって、
その様な西洋の美術史や批評、文脈、作法、
それらはどうでもいいのです。

つまり、
その作品が今、
まさに現在の不安を解消してくれれば、
それは今政治などで言われている、
ポスト真実的な振る舞いです。

つまり、
アートという本質はどうでもよく、
今、自分の精神や感情を安定させる、
現に作用させる、
またそれを実感できるものを欲している。
その様な現象です。

前回の文章でも記述しましたが、
写実は、
三次元のものを二次元に落とし込む、
次元変換をアートの構造の原理としています。

これは非常にコンサバティブな方法論です。
さらに非常にわかりやすいアートの構造の原理で、
別に専門家でなくても、
それがいかに素晴らしいかというものを実感できます。

三次元の人間を、
二次元にいかに、
生きているかの様に表現できているか、
それは専門家でなくても、
自明な評価基準です。

それは非常に明快で、
確実で、
安定したものです。

むしろ、
現代の日本人は「金塊」よりも、
写実絵画を欲しているともみえます。
なぜなら「金塊」が、
本当の金の塊かは、
素人ではわかりません。

その点写実絵画は自分の目で鑑賞すればわかります。
この様なことから、
いかに現代の日本人が、
不確実性や偶然性に恐怖を抱いているのか理解できます。

しかし、
今後日本人はこのことを、
乗り越えていかなければなりません。
私たちは、
この不確実性や偶然性を、
しっかりと引き受けていかなければいけない時代なのです。

しかし、
この写実絵画のブームを観ていると、
その準備はまだ日本人にはできていない様です。

 

 

美学者母

 

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