プロジェクト

量子論美術

Quantum Theory Art

観測・関係・非確定性から芸術の存在を問い直す

概要

量子論美術は、観測以前から対象が一義的に確定しているという近代的な対象観を問い、作品、鑑賞者、観測、関係のあいだで芸術がどのように成立するかを検討するプロジェクトである。量子論を物理学的説明として芸術に適用するのではなく、観測、非確定性、関係性という問題を、芸術の存在を再考するための契機として扱う。

本文

量子論美術は、2016年に開始されたプロジェクトである。その中心にあるのは、作品が鑑賞者とは独立して、あらかじめ完成した対象として存在するという近代的な芸術観への問いである。
ここで量子論は、芸術作品を物理学によって説明するための理論として導入されるのではない。むしろ、観測する以前から対象の状態が完全に確定しているのか、観測とは対象に対してどのような位置を占めるのか、対象と観測者を完全に分離して考えることができるのか、という問題を芸術の側から考えるための契機として参照される。
従来の芸術制度においては、作品、作者、鑑賞者はそれぞれ独立した位置を持つものとして理解されやすい。作品は制作され、鑑賞者はそれを観察し、評価する。しかし量子論美術では、この分離そのものが問い直される。鑑賞という出来事が生じる以前から作品の意味や存在が完全に確定しているのではなく、作品と鑑賞者、場所、時間、観測条件の関係によって、その都度異なる現実が成立する可能性が検討される。
したがって、量子論美術における「観測」は、単に対象を見る行為ではない。それは、対象と自己のあいだに関係を成立させ、その関係を通じて作品の現実を立ち上げる行為である。作品は一つの固定された意味を内包する対象ではなく、複数の関係可能性を持った状態として捉え直される。
この問題意識は、後の美学者母の実践におけるインターフェイス、自己外部化、非局所性、共存在、生成といった概念へと接続していく。後の生成の位相存在論から見れば、量子論美術は、存在を孤立した実体ではなく、関係と接続可能性のなかで成立するものとして捉えるための重要な先行実践として位置づけることができる。
ただし、量子論美術は、量子力学の概念を芸術へそのまま移植するものではない。物理学における量子論と芸術的・哲学的議論との位相差を保持しながら、観測、確定性、対象化という近代的な前提そのものを問い直すことに、このプロジェクトの意義がある。

Keywords

量子論美術;観測;非確定性;関係性;作品;鑑賞者;対象化;存在;インターフェイス;生成